顧客が商品を知ってから購入し、リピートするまでの流れを、行動と感情の両面から可視化したものがカスタマージャーニーマップです。どこで離れているのか、何が足りていないのかを整理するために使われます。
ただし、社内の想像だけで作ったマップは施策につながりません。実際のデータと顧客の声をもとに組み立てて、初めて判断材料になります。
本記事では、ECにおけるフェーズの区切り方を整理したうえで、マップを作る5つのステップ、埋めるべき項目、よくある失敗、そして作った後の活用方法までを解説します。
| 確認したいポイント | 結論 | 詳細 |
|---|---|---|
| 何を可視化する? | 行動と感情の時系列 | 認知から再購入までの流れを、顧客視点で並べます。 |
| ECで作る意味は? | 離脱箇所の特定に使える | 数値で見えている離脱の背景を、行動の流れとして整理できます。 |
| どう作る? | 目的設定からデータ収集の順 | 想像で埋めず、解析データと顧客の声を材料にします。 |
| 何を埋める? | 行動・接点・感情・課題 | フェーズごとに4つの観点で整理すると使いやすくなります。 |
| よくある失敗は? | 作ることが目的化する | 施策に落とすところまでを設計しなければ意味がありません。 |
Contents
この記事でわかること
- カスタマージャーニーマップの役割と、ECで作る意味
- ECに適したフェーズの区切り方
- 作成の5ステップと、各段階で使うデータ
- マップに埋めるべき4つの項目
- 陥りやすい失敗と、作った後の活用方法
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カスタマージャーニーマップとは?
カスタマージャーニーマップとは、顧客が商品を知ってから購入し、その後どうなるかまでを時系列で可視化した図です。各段階での行動、接点、感情、課題を並べて整理します。
目的は、顧客がどこでつまずいているかを見つけることです。担当者ごとにばらばらだった顧客像を揃え、施策の優先順位を議論するための土台としても機能します。
特に複数の部門が関わる組織では、この効果が大きくなります。商品開発、広告、サポートがそれぞれ別の顧客像を持っていると、施策の方向がそろわないためです。
ECで作る意味
ECでは、離脱率や転換率といった数値は取得できます。しかし数値は「どこで落ちたか」までしか教えてくれません。なぜ落ちたのかを考えるには、その前後の行動を含めて整理する必要があります。
たとえばカート離脱率が高いという事実だけでは、送料が理由なのか、決済方法が合わなかったのか、比較して他社を選んだのかが分かりません。前後の文脈を並べて初めて、仮説が立てられます。
また、購入経路が複雑になっていることも背景にあります。SNSで知り、検索で調べ、モールで比較し、後日別の経路から購入するといった流れが一般的です。1つの接点だけを見ていると、全体の構造を見誤ります。
広告の効果測定でも同じ問題が起きます。最後にクリックされた経路だけを評価すると、その前段で貢献していた接点が見えなくなります。
国内のEC市場は拡大を続けており、選択肢も情報も増え続けています(出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」)。比較検討が容易な環境では、顧客の動きを俯瞰して捉える視点が欠かせません。
「意味がない」と言われる理由
購買行動が多様化した現在では、1本の流れに整理しきれないという批判があります。実際、想定した順序をたどらない顧客は多数存在します。
ただしこれは、作り方と使い方の問題であることがほとんどです。1つの正解を描こうとせず、代表的な流れを整理して施策の当たりをつける道具として使えば、十分に機能します。詳しくはカスタマージャーニーが意味ないのは作成方法の問題!効果を高める5つの注意点を解説で解説しています。
完璧な再現を目指すのではなく、施策を考えるための補助線と捉えると、労力と効果のバランスが取れます。
作成にかかる工数も、あらかじめ見積もっておきましょう。データ収集を含めると数週間かかることもあり、担当者の時間を確保しておく必要があります。
ECではどうフェーズを区切る?
業種によって適した区切り方は変わりますが、ECでは次の形が基本になります。
| フェーズ | 顧客の状態 | 主な接点 |
|---|---|---|
| 認知 | 商品やブランドを知る | SNS、広告、口コミ、検索 |
| 興味・情報収集 | 詳しく知りたいと思う | 商品ページ、レビュー、比較サイト |
| 比較検討 | 他の選択肢と比べる | 検索結果、モール、競合サイト |
| 購入 | 注文して決済する | カート、フォーム、決済画面 |
| 受取・使用 | 商品を受け取り使う | 配送、同梱物、商品そのもの |
| 再購入・推奨 | また買う、人に勧める | メール、SNS、レビュー投稿 |
EC特有の注意点
比較検討が極端に容易である点が、実店舗との最大の違いです。別のタブで競合を開かれている前提で、各フェーズを考える必要があります。
価格やレビューが数秒で比較される環境では、自社ページ内での説明だけでは不十分です。競合と並んだときにどう見えるかまで含めて、比較検討フェーズを描く必要があります。
また、モールと自社ECでは顧客の状態が異なります。モールでは比較検討の場に自社商品が並んでいる状態、自社ECではすでに一定の関心を持って訪れている状態です。同じマップで扱うと精度が落ちます。
複数の販路を持っている場合は、販路ごとに分けて作るか、少なくとも接点の欄で区別しておきましょう。
フェーズを細かくしすぎない
段階を増やすほど精緻に見えますが、実務では扱いづらくなります。まずは5段階から6段階程度に収め、必要に応じて特定のフェーズだけを掘り下げるほうが現実的です。
たとえばカートに入れてから購入完了までを1つのフェーズにまとめると、離脱の多い区間が見えなくなります。課題が集中している箇所だけを分割するという考え方です。
カスタマージャーニーマップはどう作る?
作成は次の5ステップで進めます。
STEP1:目的とゴールを決める
何のために作るのかを最初に決めます。新規獲得の改善なのか、リピート率の向上なのかによって、描く範囲も深さも変わります。
目的が曖昧なまま作ると、全フェーズを薄く埋めただけの図になります。どのフェーズを重点的に扱うかを、先に決めておきましょう。
たとえばリピート率が課題であれば、購入後から再購入までを厚く描きます。認知が課題なら、購入前の情報接触を細かく分ける必要があります。
目的が複数ある場合は、優先度の高いものから1つに絞ります。同時に扱おうとすると、どちらも中途半端になります。
STEP2:対象となる顧客像を定める
誰の旅を描くのかを決めます。すべての顧客を1枚で表現しようとすると、平均化されて誰にも当てはまらない内容になります。
新規と既存、あるいは主力商品の購入者といった単位で分けると、具体的に描けます。想像で人物像を作らず、実際の購買データや顧客の属性から組み立ててください。
迷った場合は、売上構成比の高い層から着手します。改善の影響が最も大きく、データも十分に蓄積されているためです。
新規に開拓したい層を対象にする場合は、社内にデータがありません。この場合は、調査で情報を集めるところから始める必要があります。
STEP3:データを集める
マップの精度は、材料で決まります。社内にある定量データと、顧客から得る定性の情報の両方を用意しましょう。
- アクセス解析:流入経路、閲覧ページ、離脱箇所
- 購買データ:購入回数、購入商品、購入間隔
- サイト内検索:顧客が探している言葉
- レビューと問い合わせ:不満や疑問の内容
- インタビューやアンケート:購入理由と検討過程
特に重要なのが、購入しなかった人の情報です。購入者だけを見ていると、なぜ選ばれなかったのかが分かりません。
離脱した層の声は、自社の顧客リストからは集められません。外部のモニターを使うなど、対象を広げる方法を検討しましょう。
カートに入れたまま購入しなかった顧客に、後日理由を尋ねる方法もあります。行動が記録されている層であれば、対象を特定して聞けます。
STEP4:フェーズごとに項目を埋める
集めた材料をもとに、各フェーズの行動、接点、感情、課題を書き込みます。この段階では、社内の複数部門で意見を出し合うと抜けが減ります。
進行役は、できるだけ中立的な立場の人が担当します。特定の部門の担当者が仕切ると、その視点に偏った内容になりがちです。
作業は一度で完成させようとせず、たたき台を作ってから意見をもらう形が進めやすくなります。白紙から議論すると、時間ばかりかかります。
注意したいのは、埋まらない箇所を無理に埋めないことです。データがない部分は空欄のまま残し、後から調査で補うほうが誠実です。想像で埋めた内容は、そのまま誤った施策につながります。
STEP5:課題を施策に変換する
マップが完成しても、それ自体は成果を生みません。各フェーズで見つかった課題に対し、誰が何をいつまでに行うのかを決めるところまでが作業です。
すべてに着手する必要はありません。影響の大きさと実行のしやすさで優先順位をつけ、上位から取りかかりましょう。
この段階で施策が出てこないフェーズがあれば、そもそも課題の特定が不十分だという合図です。データに戻って確認し直しましょう。
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マップには何を書き込む?
縦軸に並べる項目は、次の4つを基本にすると使いやすくなります。
行動
そのフェーズで顧客が実際に何をしているかを書きます。「検索する」「レビューを読む」「カートに入れる」といった具体的な動作で表現します。
抽象的な表現は避けます。「情報を集める」ではなく「レビューの星3以下を先に読む」というように、行動として観察できる粒度まで落とすと、施策につながりやすくなります。
この粒度で書けない箇所は、実は分かっていない箇所です。埋められないこと自体が、追加で調べるべき対象を示しています。
接点
どこで自社と接触しているかを整理します。広告、SNS、商品ページ、メール、同梱物、カスタマーサポートなど、すべての接点を洗い出します。
自社が管理していない接点も書き出します。比較サイト、SNSでの他人の投稿、家族や知人からの推薦など、コントロールできない接点も購買には影響します。
ここで接点がまったくないフェーズが見つかれば、それ自体が課題です。購入後に一度も連絡していない、といった空白は、リピート率につながります。
逆に、接点が多すぎるフェーズにも注意します。同じ内容の案内が複数の経路から届いていれば、煩わしさを感じさせている可能性があります。
感情
その時点で何を感じているかを書きます。「サイズが合うか不安」「送料が高いと感じた」「思ったより早く届いて嬉しい」といった内容です。
この項目は、レビューやインタビューから拾います。社内で想像すると、都合の良い感情ばかりが並びます。
特に不安や迷いは、購入を止める直接の要因です。ポジティブな感情だけを並べたマップは、改善点を見つける役に立ちません。
レビューの低評価や、問い合わせの内容は、この項目を埋めるための最良の材料です。日常的に集まっている情報を活用しましょう。
課題と施策案
各フェーズで顧客がつまずいている点と、それに対する打ち手を書きます。ここが埋まらなければ、マップは資料で終わります。
打ち手は具体的に書きます。「情報を充実させる」ではなく「サイズ表を商品画像の直後に配置する」というレベルまで落とし込めれば、そのまま実行に移せます。
あわせて、実行の難易度も記入しておくと優先順位をつけやすくなります。すぐできるものと、開発が必要なものを分けておきましょう。
サイト内の導線に関わる課題であれば、構造の見直しから検討します。設計の考え方はECサイト制作のポイントでも整理しています。
よくある失敗は?
作ったものの活用されないケースには、共通する原因があります。
想像だけで作ってしまう
最も多い失敗です。会議室での議論だけで完成させると、自社にとって都合の良い流れが描かれます。実際の顧客はそのように動いていません。
最低限、アクセス解析とレビューは確認してから作りましょう。可能であれば、数名でもインタビューを実施すると精度が変わります。
5人程度に話を聞くだけでも、想定していなかった行動が見つかります。全員に共通する内容であれば、追いかける価値の高い論点です。
インタビューが難しければ、購入時のアンケートで「何を比較したか」を聞くだけでも材料になります。
顧客像が曖昧なまま進める
誰の旅なのかが定まっていないと、フェーズごとの記述もぼやけます。人物像の設定が土台になるため、ここを飛ばすとマップ全体が使えなくなります。設定の方法はペルソナマーケティングの意味を解説!ECサイトで活用する目的と導入方法を紹介で解説しています。
作ることが目的化する
見栄えの良い図を完成させて満足してしまうパターンです。施策に落とし込む担当者と期限を決めていなければ、そこで止まります。
報告の場でも、マップの説明より施策の説明に時間を割きましょう。図はあくまで根拠を示す材料です。
一度作って更新しない
顧客の行動も、接点となる媒体も変化します。作成から1年以上経ったマップは、実態と乖離している可能性が高くなります。
特にSNSや検索の使われ方は変化が速い領域です。認知フェーズの記述は、定期的に見直す前提で扱いましょう。
全員の行動を1枚に詰め込む
新規もリピーターも、若年層も高年齢層も同じ図に収めようとすると、どの層にも当てはまらない内容になります。分けて作るほうが結果的に使えます。
最初から複数枚を用意する必要はありません。まず主要な層で1枚作り、運用しながら必要な分だけ増やしていく進め方で十分です。
作った後はどう使う?
完成後の使い方まで設計しておくことで、投じた工数が回収できます。
施策の優先順位を決める
各フェーズの課題を並べ、影響の大きさで順位をつけます。感覚での議論が減り、判断が速くなります。
影響の大きさは、該当する人数と、そこで失っている金額の両面で見ます。件数が少なくても、単価の高い層の離脱であれば優先度は上がります。
部門間で顧客像を共有する
商品開発、マーケティング、カスタマーサポートで、見ている顧客像が違うことは珍しくありません。共通の図があると、議論の前提が揃います。
サポート部門は顧客の不満を最も多く聞いている部署です。マップの作成段階から参加してもらうと、精度が上がります。
現場の担当者ほど、具体的なエピソードを持っています。それを引き出せるかどうかで、内容の解像度は変わります。
施策の抜け漏れを点検する
フェーズごとに実施中の施策を並べてみると、特定の段階に施策が偏っていることが見えてきます。多くの場合、購入前に集中し、購入後が手薄になっています。
新規獲得の費用が上がり続けるなかで、購入後の接点をどう設計するかは利益に直結します。空白が見つかったら、優先的に埋める価値があります。
定期的に更新する
半年から1年に一度は見直します。新しいデータや顧客の声を反映させることで、実態に近い状態を維持できます。
大きな施策を実施した後も、更新の機会にあたります。改善によって顧客の行動が変わっていれば、その内容を反映させましょう。
更新のタイミングで、前回描いた課題がどう解決されたかも確認しましょう。改善の履歴としても機能します。
解決されていない課題が残り続けている場合は、実行の優先順位か、そもそもの体制に問題があります。マップは、その点を可視化する役割も果たします。
まとめ
カスタマージャーニーマップは、顧客の行動と感情を時系列で可視化し、つまずいている箇所を見つけるための道具です。ECでは、認知、興味、比較検討、購入、受取・使用、再購入という区切りが基本になります。
作成は、目的の設定、顧客像の決定、データ収集、項目の記入、施策への変換という5ステップで進めます。最も重要なのはデータ収集で、想像だけで埋めたマップは誤った施策につながります。
作った後は、優先順位の判断、部門間での共有、施策の偏りの点検に使います。半年から1年ごとに更新し、実態との乖離を防いでください。作ることではなく、使い続けることが目的です。
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