管理画面を開けば、数十種類の数値が並んでいます。すべてを追いかけようとすると、報告のための集計に時間を取られ、肝心の改善が進みません。
KPIは、多く設定するほど機能しなくなります。事業の段階と、いま抱えている課題によって、見るべき数値は変わるためです。
本記事では、売上を分解して優先順位を導く方法を整理したうえで、事業の段階ごとに追うべきKPI、設計の手順、そして運用でつまずきやすい点までを解説します。
| 確認したいポイント | 結論 | 詳細 |
|---|---|---|
| いくつ設定する? | 主要なものは3つ程度 | 追う数が増えるほど、判断は鈍くなります。 |
| どう選ぶ? | 売上を分解して考える | アクセス、転換率、客単価のどこに課題があるかで決まります。 |
| 立ち上げ期は? | アクセスと転換率 | まず人を集め、買える状態をつくることが優先です。 |
| 成長してきたら? | リピートと利益 | 新規獲得だけでは、費用が売上に追いつかなくなります。 |
| よくある失敗は? | 数値を見て終わる | 誰が何をするかまで決めなければ改善しません。 |
この記事でわかること
- KPIを絞るべき理由と、追いすぎたときの弊害
- 売上を分解して優先順位を導く方法
- 事業の段階ごとに追うべきKPI
- 課題別に見るべき数値の選び方
- 設計の手順と、運用でつまずきやすい点
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なぜKPIを絞る必要がある?
KPIとは、目標に向かう過程を測るための指標です。最終的な目標そのものではなく、そこへ至る途中経過を確認するために設定します。
最終目標はKGIと呼ばれ、KPIはそこへ至る中間の目標という関係になります。この2つを区別せずに扱うと、何を管理しているのかが曖昧になります。
言葉の定義自体は重要ではありませんが、結果を見ているのか過程を見ているのかの区別は、実務上の意味を持ちます。
売上を最終目標とするなら、その手前にあるアクセス数や転換率がKPIにあたります。売上という結果だけを見ていても、何を直せばよいかは分かりません。
売上が落ちたという事実は誰でも分かります。人が来ていないのか、来ても買われていないのかを区別できて初めて、次の手が決まります。
追いすぎると機能しなくなる
10個も20個も設定すると、どれが重要なのかが分からなくなります。数値が動いても、それが良いことなのか悪いことなのかを判断できません。
集計そのものにも時間がかかります。報告資料を作ることが目的化し、改善に使える時間が減っていきます。
担当者が数値をまとめるだけで一日を使っている状態は、投じた工数に見合いません。何を捨てるかを決めることも設計のうちです。
主要な指標は3つ程度に絞り、必要に応じて補助的な数値を確認するという構成が現実的です。指標の一覧や設定方法そのものはECサイトに導入するべき7つのKPI!設定方法やKGIとの違いも紹介で整理しています。
目標と混同しない
売上や利益は、達成したい結果そのものです。これを追うだけでは、なぜ届かなかったのかが説明できません。
KPIは、結果に至る過程のどこに問題があるかを示すために設定します。この区別が曖昧なまま数値を並べると、議論が進みません。
最終目標と過程の指標を分けて資料に記載しておくと、社内での認識もそろいやすくなります。
まず売上を分解する
優先順位を決める前に、売上がどの要素で構成されているかを分解します。ここが出発点です。
| 要素 | 意味 | 主な打ち手 |
|---|---|---|
| アクセス数 | サイトに訪れた人数 | 広告、検索対策、SNS |
| 転換率 | 訪問者のうち購入した割合 | 商品ページ、購入手続きの改善 |
| 客単価 | 1注文あたりの平均金額 | 関連商品の提案、セット販売 |
| 購入頻度 | 同じ顧客が買う回数 | フォロー、定期購入、配信 |
| 利益率 | 売上のうち手元に残る割合 | 原価、送料、手数料の見直し |
売上は、この掛け算で決まります。どの要素が他と比べて弱いのかが分かれば、優先すべきKPIも自然に決まります。
リピートを含めて考える場合は、購入頻度を加えた形で捉えます。新規と既存を分けて計算すると、それぞれの課題も見えてきます。
新規の転換率と既存の転換率では、水準がまったく違います。合算した数値だけを見ていると、構成比の変化を施策の効果と取り違えます。
弱い箇所から着手する
アクセスは十分あるのに転換率が低ければ、広告を増やしても効率は上がりません。まず購入されない原因を解消するほうが確実です。
穴の空いたバケツに水を注ぎ続けるようなものです。注ぐ量を増やす前に、漏れを止めるほうが効率的です。
転換率が1%から1.5%に上がれば、同じアクセス数で売上は1.5倍になります。集客を1.5倍にするより、はるかに低い費用で実現できます。
逆に、転換率は業界の水準にあるのにアクセスが少ないなら、集客に投資する余地があります。
この判断ができるだけで、限られた予算をどこに使うかが決まります。感覚で施策を選んでいる状態から抜け出せます。
社内で議論する際も、分解した数値を並べれば前提が共有されます。担当ごとの主張がぶつかることも減ります。
比較の基準を持つ
自社の数値が高いのか低いのかは、比較しなければ判断できません。過去の自社の数値と比べるのが最も確実です。
公表されている平均値は、算出の前提が分からないことがほとんどです。参考程度にとどめ、目標として掲げるのは避けましょう。
同じ業界でも、価格帯や販路が違えば水準は変わります。自社と条件の近い事例を探すほうが有益です。
業界の目安を参考にする場合も、商材の価格帯やジャンルによって水準は変わります。転換率の考え方は楽天市場の転換率(CVR)とは?平均値や向上施策を解説でも整理しています。
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どのKPIを優先すべき?
事業の段階によって、追うべき数値は変わります。
| 段階 | 優先する指標 | 理由 |
|---|---|---|
| 立ち上げ期 | アクセス数、転換率 | まず売れる状態をつくることが先 |
| 成長期 | 客単価、獲得単価 | 効率を上げて拡大の余地を広げる |
| 安定期 | リピート率、利益率 | 新規依存から脱し、利益を確保する |
| 停滞期 | 離脱箇所、解約率 | どこで失っているかを特定する |
立ち上げ期:アクセスと転換率
人が来ていなければ、何も始まりません。同時に、来ても買われない状態では広告費が無駄になります。この2つを同時に確認する必要があります。
どちらか一方だけを追うと、判断を誤ります。アクセスが増えても転換率が下がっていれば、狙う層がずれている可能性があります。
この段階では、細かい指標を追う余裕もデータもありません。訪問者数と、そのうち何人が買ったかという2つで十分です。
データが少ない時期に細かく分析しても、偶然の変動に振り回されるだけです。まず一定量の実績を積むことを優先しましょう。
この時期は、数値を見るより実際に商品を売ってみることのほうが多くを学べます。
成長期:客単価と獲得単価
売れる状態ができたら、次は効率です。1件あたりの購入額を上げれば、獲得にかけられる費用の上限も上がります。
あわせて、1件の注文を得るためにいくらかかっているかを把握します。この2つの関係が、拡大できるかどうかを決めます。
1件あたりの利益が獲得費用を上回っていれば、広告を増やすほど利益も増えます。逆であれば、拡大するほど損失が膨らみます。
初回の購入だけで判断するか、その後のリピートまで含めて判断するかでも結論は変わります。どちらで見るかを決めておきましょう。
安定期:リピート率と利益率
新規獲得の費用は年々上がります。同じ売上を作るための費用が増えていくため、既存顧客からの売上比率を高める必要があります。
リピート率が改善すれば、獲得にかけられる費用の上限も上がります。攻めと守りの両方に効く指標です。
この段階に入ってからリピート施策を始めるのでは遅い場合もあります。成長期のうちから、購入後の設計を整えておくと有利になります。
あわせて、売上ではなく利益で見る視点が重要になります。売上が伸びているのに利益が減っている状態は、この段階で顕在化します。
値引きや送料負担、広告費の増加が積み重なった結果です。売上だけを追ってきた事業ほど、この局面でつまずきます。
早い段階から利益も並べて見ておけば、この状態に陥る前に気づけます。
停滞期:離脱箇所と解約率
数値が伸びなくなったときは、どこで失っているかを特定します。カート離脱率、フォームの完了率、定期購入の解約率といった、失点を示す指標が中心になります。
伸ばす施策より、失っている箇所を塞ぐほうが早く成果につながる場面です。
新しい施策を増やす前に、いま起きている取りこぼしを確認しましょう。
課題別に選ぶ
段階だけでなく、いま何に困っているかからも選べます。
- 広告費が合わない:獲得単価、客単価、リピート率
- アクセスはあるのに売れない:転換率、離脱箇所、カート離脱率
- 売上は伸びているのに利益が出ない:利益率、送料負担、値引き率
- 新規は取れるが続かない:初回から2回目への転換率
- 出荷が追いつかない:注文件数、客単価、平均購入点数
困っていることが複数ある場合は、売上への影響が大きいものから1つ選ぶようにしましょう。同時に追うと、どれも中途半端になります。
影響の大きさは、改善したときにいくら売上が変わるかで試算できます。感覚ではなく金額で比較しましょう。
試算しておけば、社内で優先順位を説明する際の根拠にもなります。
KPIはどう設計する?
選んだあとの設計手順を整理します。
STEP1:最終的な目標を決める
売上なのか、利益なのか、特定商品の販売数なのかを明確にします。ここが定まらなければ、KPIも決められません。
複数の目標がある場合も、優先順位をつけておきます。すべてを同時に最大化することはできません。
STEP2:目標を要素に分解する
売上であれば、アクセス数、転換率、客単価に分けます。それぞれの現状値を出し、どこを何%改善すれば目標に届くかを計算しましょう。
この計算は表計算ソフトで十分にできます。数値を入れて動かしてみると、どの要素の影響が大きいかが体感できます。
現状値を入れた計算表を1枚作っておけば、毎月の振り返りにもそのまま使えます。
計算してみると、現実的でない改善幅を前提にしていることに気づく場合があります。その場合は目標そのものを見直す必要があります。
転換率を2倍にするといった前提は、多くの場合達成できません。複数の要素を少しずつ改善して積み上げるほうが現実的です。
STEP3:定義を決めて固定する
転換率の分母を訪問数にするかセッション数にするか、客単価に送料を含めるかで、数値は変わります。一度決めた計算方法は変えないことが前提です。
定義は文書に残しましょう。担当者が変わったときに計算方法が変わると、過去との比較ができなくなります。
使っているツールによって、同じ名前の指標でも計算方法が違うことがあります。どのツールの数値を使うかまで決めておきましょう。
STEP4:確認する頻度を決める
毎日見るべき数値と、月次で十分な数値があります。リピート率のように変化が緩やかな指標を毎日見ても、判断はできません。
頻度を決めておけば、確認そのものが負担になりません。見る日を決めて習慣にしましょう。
日次で見る数値は、異常に気づくためのものです。細かく分析するのは月次で十分です。
STEP5:担当と打ち手を紐づける
数値ごとに、誰が責任を持つのかを決めます。担当が決まっていない指標は、誰も改善しません。
担当者が影響を与えられる指標であることも重要です。自分では動かせない数値の責任を負わされても、行動につながりません。
複数の部署にまたがる指標は、責任の所在が曖昧になりがちです。誰が主導するのかを決めておきましょう。
あわせて、その数値を動かすための打ち手も用意しておきます。施策の全体像は【保存版】ECサイトの売上をアップさせる施策10選!成功事例も紹介で整理しています。
運用でつまずく点は?
設計しても機能しないケースには、共通する原因があります。
数値を見て終わる
最も多い失敗です。会議で数値を報告し、上がった下がったを確認して終わってしまいます。次に何をするかを決めるところまでが会議の目的です。
報告の時間より、打ち手を議論する時間を長く取る構成にしましょう。
数値の説明は事前に共有しておき、会議では議論から始めるという運用も有効です。
決まったことは記録に残し、次回の会議で進捗を確認します。この繰り返しが改善を進めます。
外部要因を考慮しない
セール期間、競合の動き、季節要因によって数値は動きます。施策の効果と外部要因を切り分けずに評価すると、判断を誤ります。
前年同期との比較や、施策を実施していない期間との比較を併用しましょう。
施策を実施した時期を記録しておくことも重要です。後から振り返るときに、何が影響したのかを追えます。
一部の数値だけを追う
転換率だけを目標にすると、購入しやすい層だけに広告を絞る動きが起きます。数値は改善しますが、全体の売上は伸びません。
必ず売上や利益と並べて確認してください。単独で追うと、必ずどこかに歪みが生じます。
客単価も同様です。上がっても購入者数が減っていれば、売上は落ちています。
目標が高すぎる
達成不可能な数値を掲げると、担当者は諦めます。現実的な改善幅を積み上げる形にしたほうが、結果的に成果は出ます。
また、達成できない目標を追い続けると、数値を良く見せる工夫に労力が向かいます。本来の改善から離れていきます。
見直さない
事業の段階が変われば、追うべき指標も変わります。半年から1年に一度は、いまのKPIが適切かを確認しましょう。
見直しの際は、追わなくなった指標を明確に外します。惰性で残り続けると、集計の負担だけが積み上がります。
モールと自社ECで違う点は?
販路によって、取得できる数値と打てる手が異なります。
モールでは取得できる範囲が限られる
顧客の詳細な情報や、サイト内での行動データは限定的にしか得られません。管理画面で確認できる指標を前提に、KPIを組み立てる必要があります。
一方で、検索順位や露出の状況といった、モール特有の指標が重要になります。同じ転換率でも、露出が変われば意味は変わります。
検索結果での表示位置やクリック率は、モールでの売上に直結します。管理画面で確認できる範囲を把握しておきましょう。
自社ECでは行動データが取れる
どのページを見て、どこで離脱したかまで把握できます。そのぶん、細かい指標を設定できますが、追いすぎるリスクも高まります。
取得できることと、追うべきことは別です。判断に使う数値だけを選びましょう。
分析ツールの初期設定のまま、大量の指標を眺めている状態は避けたいところです。
必要な数値だけを並べた画面を用意しておくと、確認の手間も減ります。
併売している場合
販路ごとに数値の水準は異なります。合算した数値だけを見ていると、どちらに課題があるかが分かりません。販路別に分けて確認することが基本です。
ただし、事業全体としての目標は1つです。販路ごとの数値を追いつつ、全体でどうなっているかを見る二段構えにしましょう。
販路によって手数料や送料の条件も違います。売上だけでなく、利益ベースでも比較しておくと判断を誤りません。
市場全体の動きも把握する
自社の数値が伸びていても、市場全体がそれ以上に伸びていれば相対的には後退しています。国内のEC市場の状況は公的な調査でも公表されています(出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」)。
まとめ
KPIは、多く設定するほど機能しなくなります。主要な指標は3つ程度に絞り、必要に応じて補助的な数値を確認する構成が現実的です。
優先順位を決めるには、まず売上をアクセス数、転換率、客単価、購入頻度、利益率に分解します。他と比べて弱い要素が、そのまま優先して追うべき指標になります。
事業の段階によっても変わります。立ち上げ期はアクセスと転換率、成長期は客単価と獲得単価、安定期はリピート率と利益率が中心です。設計したら、定義を固定し、確認の頻度と担当を決め、数値ごとに打ち手を用意してください。数値を見て終わらせないことが、最も重要な点です。
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