「百貨店のECで売上を伸ばすためにはどのような施策が有効?」
「大手百貨店が行っているEC戦略の事例を知りたい」
「一般的なECサイトと百貨店ECはどう違う?」
上記のようにお悩みではありませんか。百貨店業界の市場が衰退していく中で、EC業界への進出は売上拡大のきっかけとなります。しかし、大手百貨店のEC化率は依然として低いままです。
そこで本記事では、大手企業が実施する戦略の事例や百貨店のECサイトが置かれている現状、差別化するためのポイントを詳しく解説していきます。
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Contents
百貨店におけるECの現状を3つの視点で解説
まずは、百貨店におけるECサイトの現状を理解するところから始めましょう。自社が参入する前に「競合他社がどのようなスタンスでECを運営しているのか」「市場規模はどれほどなのか」を理解しておくことで、事前の対策や差別化を図れます。
1. 市場規模の比較
百貨店業界の市場規模は減退しており、ピーク時の1991年では12兆円でしたが、2022年では半分以下の5.5兆円となっています。これはBtoCにおけるEC市場(22.7兆円)の4分の1です。
衰退した原因の1つは、1980年ごろから登場した「専門小売店」や、インターネットとスマホの普及に合わせて定着した「ネットショッピング」があげられます。その「手軽さ」と「商品の網羅性」にこれまでの顧客が流れてしまい、百貨店の販売額は低下していきました。
EC業界で見ても、大手の「Amazon」や「楽天市場」などにシェアの大半を奪われています。そのため「安心感」や「高級感」といった百貨店ならではの強みを生かした戦略が必要とされており、競合他社と差別化を図ることが求められています。
参照元:商業動態統計調査(経済産業省)
2. ECサイトの立ち位置
多くの百貨店では製造者から納品された際ではなく、顧客が商品を購入するのと同時に売上と仕入れを計上する仕組みを採用しています。ネット販売でも同様に、百貨店側は販売機会の提供をしているだけで商品の権利はテナント側にあるため、新型コロナウイルス感染症の蔓延により実店舗が休業を余儀なくされた時期は、ECサイトも閉めざるを得ませんでした。
このように百貨店のECサイトは、実店舗ありきの考えで運営されています。商品が売れるまでの権利はテナント側が持っており、事前に経理上の処理ができていないため、受注してから商品をピックアップし顧客への発送が行われます。
この販売形態では発送までに時間が掛かるケースが多く、決してユーザーの利便性が高い構造とはいえません。売上の内容で見ても、売上の4分の3をお中元などのギフト関連で占めており、一部のニーズしか満たせていないことが実情です。
3. 百貨店のEC化率
大手百貨店5社の「商取引全体のうちのEC売上の割合」を示すEC化率は、以下のとおりです。
- 株式会社高島屋:4.2%
- 株式会社三越伊勢丹ホールディングス:3.9%
- 株式会社近鉄百貨店:3.5%
- J.フロントリテイリング株式会社(大丸松坂屋百貨店):2.4%
- エイチ・ツーオーリテイリング株式会社(阪急百貨店):1.7%
BtoC市場(物販系)の平均EC化率9.13%と比較すると、百貨店業界はEC事業において後れを取っていることが分かります。EC業界内部を見ても「Amazon」や「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」といった大手モールに集客されており、各社は厳しい運営を強いられています。
百貨店業界がECでの業績を向上させるためには「企業への安心感」や「高級感」といった独自の強みを洗い出し、差別化ポイントを全面に押し出した戦略が必要です。これまでのメインであったギフト類の売上に加えて、新たなニーズを満たす商品や販売方法が求められます。
百貨店が一般的なECサイトと差別化するための4つの戦略
百貨店業界は現状において、EC事業で後れを取っています。この状況を打破するためには百貨店の強みを生かし、他のECサイトでは得られない購入体験を提供しなければなりません。ここでは、差別化するためのポイントを4つに分けて詳しく解説していきます。
1. イベント別の販売管理
ECシステムや機能を使いこなし、イベント別で販売管理を行いましょう。百貨店では実店舗・EC問わず、季節行事に関するイベントやご当地グルメを集めたフェスタを多く開催します。
催事ごとが多くあるため、実店舗ではフロア別やイベント別に担当部署が分かれており「商品企画」から「販売」「売上高管理」までを一貫して行うケースが一般的です。さらにECでは商品の発送手配や店舗受け取りの可否など、追加で行わなければならない業務が増えます。
ECでも実店舗と同様に催事別の管理体制を整えるには、異なるイベントの商品が同じ会計にならないよう「カートシステム」を個別に設定しなければなりません。カートを別にして担当部署を事前に分けることで、集計業務を手作業で行う手間を省けると同時に人為的ミスを防げます。
2. 自社カード会員の認証
実店舗・EC問わず、百貨店が他社との差別化を図る上で、お得意様の優待は外せません。多くの百貨店では、クレジットカード会社との提携や自社でオリジナルカードを発行しています。それらのクレジットカードは、自社利用における還元率の高さや会員限定のサービスを売りにしています。
そのため、ECサイトではIDとパスワードを発行して「自社のカード会員であるか」を確認しなければなりません。自社のカード会員には「ポイント還元」や「送料無料」などの特典を付けて、満足度の向上を図りましょう。
お客様に利益のある購入体験を提供することで、他社への流出防止につながるとともに、さらなる売上や良い口コミを発信してくれる優良顧客となる可能性が高まります。
3. ギフト商品の受注・管理
百貨店のECサイトでは、ギフト商品の受注から管理・発送業務までを簡素化しておきましょう。対策の1つとして、配送先情報を記録する「アドレス帳機能」があげられます。配送先や個数の多い法人からの受注が入った場合でも、配送先を記録しておけばスムーズに対応できる上に人為的なミスを防げます。
お中元やお歳暮といったギフト関連は、百貨店に求められているニーズの1つです。「梱包方法」や「のしの有無」のほか「配送先住所」や「配送日時の設定」といった業務を、実店舗と同様のクオリティで提供しなければなりません。
取引先や恩人へ送るギフトでは、梱包ミスはもちろん配送先住所の指定ミスなども許されません。「アドレス帳機能」や「複数の配送先指定機能」といった「顧客」と「運営」双方の労力をカットできるシステムを導入しておき、バックエンド業務を正確かつ効率的に進めましょう。
ECサイトのバックエンド業務については、関連記事の「【完全網羅】ECサイト運営における9つの業務を紹介!費用の目安と3つの課題を解説」でも詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
4. システムの連結機能
ECサイトを運営する上では、システム同士の連結が欠かせません。ニーズの高いギフト関連を実店舗と同じクオリティで提供するための「ギフトシステム」はもちろん「会員システム」や「会計システム」「在庫管理システム」など、多くの機能を連動させておく必要があります。
そのため、運営後に必要となる機能を持ったECシステムでサイトを立ち上げましょう。利用するECシステムによっては、外部機能との連結が不可能なものもあります。多くのサイト立ち上げ方法がありますが、予算や事業規模を考慮しながら自社に合ったECシステムを採用してください。
ECサイトの立ち上げ方法については、関連記事の「ECサイトを立ち上げる手順を7つのステップで解説!構築方法5選と注意点を4つ紹介」で詳しく解説していますのでぜひ参考にしてください。
大手百貨店におけるEC戦略の事例
ここでは、大手百貨店5社がEC事業で行っている戦略の事例を紹介します。これまでは気づいていなかった「百貨店における強み」に改めて気づく可能性もあります。競合の動向を把握すると同時に、自社の戦略を設計する際の参考にしてください。
1. 高島屋オンラインストア
大手百貨店の「高島屋」が運営するECサイトでは、スマホユーザーが操作しやすい設計を心掛けています。経済産業省が発表するデータにおいても、2021年の通信機器の保有状況はパソコンが66.5%に対してスマートフォンは88.6%と、インターネットを利用する媒体がパソコンからスマートフォンにシフトチェンジしていることは明確です。
また「高島屋オンラインストア」では、コスメ商品の強化にも着目しています。従来の百貨店コスメにこだわらず、価格の抑えられた「プチプラコスメ」やトレンドの「韓国コスメ」の販売も進めています。
運営方針についてもこれまでとは異なり、各店舗が開発した商品の販売だけでなく、バイヤーを配置して独自の商品仕入れやECサイト限定の商品開発に力を入れました。高島屋ではEC専用の在庫を保管する倉庫も完備して、ユーザーファーストな運営に切り替えています。
参照元:令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書(経済産業省)
2. 三越伊勢丹オンラインストア
三越伊勢丹では、EC進出とともにアプリ開発に力を入れています。アプリで「集客」から「情報発信」「販売」までを行うことで、スマホユーザーが利用しやすい環境を整えました。
またオウンドメディアも運営しており、ECサイトとワンクリックで切り替えられる仕組みを導入しています。アプリやオウンドメディアへ訪れる「購買意欲の高い顧客」を確実に取り込むことで、売上の確保につながっています。
見込み顧客の確保から商品の販売までをスムーズにつなげる動線を実現することで、2023年3月期決算におけるECを含むオンライン事業の売上高は、前期比7%増の約400億円となりました。
3. 近鉄百貨店ネットショップ
近鉄百貨店では「近鉄のおせち」や「近鉄のお歳暮」など「近鉄の◯◯」として、強みの安心感や高級感を与える「近鉄ブランド」を全面に押し出す施策を展開しています。
同時に大手ECモールの「楽天市場」や「Yahoo!ショッピング」へ出店することで、露出面を増やして、集客から売上までを完結させています。
またコロナ禍の2020年5月〜8月に開催した「お中元向け通販企画」では「簡単操作マニュアルの作成」や「サイトリニューアル」のほか「アプリでの告知」を行うことで、前年比36.6%増の売上となりました。
4. 大丸松坂屋オンラインストア
大丸松坂屋のECサイトは、トップページにある大きな写真の「商品バナー」が特徴的です。自社がおすすめする商品を積極的にアピールすることで、百貨店の実店舗へ訪れたようなワクワク感を演出しています。
同時に「サイト内検索」や「カテゴリー別検索」機能を導入して、顧客の利便性にも配慮したサイト設計です。集客方法としては、YouTubeへ1分以上と長尺の宣伝動画を配信しています。
大丸松坂屋では、ネットやスマホの普及に合わせて広告配信をYouTubeへの出稿に切り替えるとともに、デジタル広告の効果を検証するための社内体制を整えました。配信時間や内容など、さまざまなタイプの動画広告を試して、2018年以降は年間平均400ものパターンを検証しています。
5. 阪急百貨店オンラインストア
阪急百貨店では「実店舗」や「ECサイト」のほか「SNS」や「カタログ」など、顧客とのあらゆる接点を統合させて購買を促すオムニチャネル化を進めています。具体的には、公式LINEアカウントから実店舗への来店予約を行うことで、待ち時間を発生させることなく接客を受けられる「HANKYU FITTING SALON」を開始しました。
また実店舗で販売されている商品を自宅へ届けてくれる「Remo Order」や、ECサイトには不掲載の物が載っている「Webカタログ」を提供しています。企業と顧客をつなぐあらゆる接点を統合させることで、販売機会の損失を防ぐことに成功しています。
さらに阪急百貨店では、住所やクレジットカード情報の入力を省ける「Amazon Pay」を導入しました。ネームバリューのあるAmazonを導入することで、セキュリティに関するリスクの排除と同時に顧客の利便性を高めています。
オムニチャネルについては、関連記事の「オムニチャネル戦略の5つの効果と実行方法を5ステップで解説【成功事例も紹介】」にて詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
百貨店がユーザーファーストなECサイトを構築するならFORCE-R
百貨店がEC事業で成功を収めるためには実店舗ありきの運営体制ではなく、ユーザーファーストのECサイトを構築しましょう。具体的には、企業と顧客の接点を統合させて一貫したアプローチをする「オムニチャネル」やオンラインとオフラインの垣根をなくす「OMO」などが有効です。
また品質の維持や業務の効率化を目指すためには、外部のデータと連携できるECシステムの構築が不可欠です。FORCE-Rであれば、クライアントのニーズにあったECサイトの構築から高度な戦略設計までのサポートが可能です。まずは以下のリンクから、お気軽にお問い合わせください。
まとめ|百貨店のECサイトには独自の強みを生かすための機能と戦略が必須
季節行事やご当地グルメを集めてのイベントを多く開催する百貨店のECサイトでは、事前にカートシステムを分けておくことで、集計作業の効率化が可能です。また自社のクレジットカード会員への優待や、ギフト商品の提供体制を実店舗と同じ品質で行えるよう整えておきましょう。
顧客の利便性を高めて質の高いサービスを提供するためには、オンラインとオフラインの垣根をなくし、さまざまなチャネルを統合させるアプローチがカギとなります。実店舗で培った「企業への安心感」と「高級感」を最大限に生かして、EC事業を成功に導きましょう。